Why don't you change the component?
JAXAのホームページにH3打ち上げ失敗に関する新しい報告書が上がって居たので読んでみた。そして驚いた。
大まかには「物が無いので良く解らんけど、可能性の有る原因を想定して対策する」「その中で唯一トランジスタの過電圧だけは実際に定格オーバが起こっていたみたい」と言う内容。
読んでいてメチャ違和感があるのは「シミュレーションと実測で検証してみたら定格120Vに対して190V印加されて居た」の部分。開発の過程で誰もチェックして無いのか???。にわかには信じられん。 回路図の一部しか書いてないので良くわからんけど、古くさいTO-3パッケージとか後に続くコイルの説明とかと合わせて考えると、1980年代のポルシェCDIと同等の自励式DC-DCコンバータかな?と想像。
そしてそのベース回りの抵抗を変更する事で、コレクタ(=コイル)に発生する逆起電圧を押さえようという対策。
他の文章と合わせて読むとトランジスタ本体は交換しないみたいに読める。様はベースの抵抗だけを弄ってコイルへの通電時間を短縮?若しくはゆっくりターンオフして逆起電圧を低下させる。その際に放電のピーッと言うサイクルがビビビに低下するけど問題無かろう、と。 このコイルの図を見る限りベース巻線がある自励式かな?と思うわけだけど、私は電気技術者じゃ無いので本当の事を知って居る人が居たら教えて欲しい。
で、なぜトランジスタを交換しないんだろう?と思うわけ。うちがイグナイタの試験に使って居る点火用IGBTならVceが450Vも有るしアバランシェ耐量が320mJも有る。何の保護装置が無くてもその辺のコイルを繋いだくらいでは死なない。JAXAはなぜ頑なにTO-3のVceが120Vしか無いトランジスタを使い続けるのだろう?。TO-3に拘るにしても、手元にあるMJ15001ですらVceは140Vだから、JAXAが探せば190V品だって有るだろう。
少なくともスペースXはこんなのは使わないと思う。もし使って居ても直ぐに変更すると思う。なぜ日本だと古いトランジスタが使われ続けるのか?。権威みたいな人が設計した図面だからだろうか?。何らかのルールだろうか?。
「トランジスタを変えるって、メイン部品を変更したらヒートサイクル試験が8ヶ月必要なのよ!解る?、次の発射は2ヶ月後に決まってるんだから遅れたらJAXA解体よ!、抵抗なら規則が無いでしょ!、何とか抵抗を調整してギリギリの所を見つけさせてよ。」
こんな遣り取りが有っていたら日本は終わるな。日本って内容じゃ無くて誰が言ったかによって方向が決まるし、馬鹿がルールを決めて、もっと馬鹿がそれを必死で守らせようとする所が有る。こないだ知り合ったIIT出身のインド人技術者も、嫌になって日本を逃げ出したりしないか不安だ。 このページなんかいかにも宇宙的で厳しいんだなあ・・・と思うけど、摩耗粉が振動でシートを貫通する危険性を考慮しながら、写真の向こうには普通の?リード線が見える。
今時入手すら難しそうなアキシャルリードの電解コンデンサ。別のページには「タンタル」の言葉もあるから一部の技術者は反応するかも知れない。
アキシャルリードの電解コンデンサなんて首記のポルシェのCDIでしか見た事無いけど、H2Aと同じエキサイタと書いて有るからH2Aの開発時期と航空宇宙業界の保守性を思えばこの形状も納得出来る。
と、それよりも気に成るのがリード線。前のページでは絶縁シート中の摩耗粉の挙動を心配して居ながら、このコンデンサは空中配線?。 こっちには熱収縮チューブを付けましょうと書いて有る。耐熱性からあえてTO-3パッケージかも?と思って居たけど、回りの配線はその辺の機械と大して変わらん。ウーン。
たぶん点火の為の動作は数秒と思われるので放熱性は重要じゃ無い。ならプリント基板に今風の点火用IGBTでも半田付けして、ゲートには適当な発振ICを繋いでコレクタに適当な点火コイル繋いだ方が強そうな気がする。H3の電子部品の9割は車載用部品の流用と言って居ながら、なぜこんな旧態依然とした部品と設計を続けるのか訳が解らん。
まあ三流私大の機械工学科出身者の妄想は見当違いと思うけど、スペースXの該当部品を見つけて来て比べてみたい。そこには発射できないロケットと再利用のために軟着陸するロケットの違いがある筈だから。
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コメント
指摘が鋭いですね。全くその通り、とうなづきながら読みました。
使用できる部品は技術基準書の類に規定されていて、古く、改定されていない。時代ごとに量産流通する技術トレンドにあった改訂をサボっている、というか、改訂のためのプロセスが書類、試験、たくさんの承認、と煩雑すぎて機能しておらず、開発者は新部品を使うために改訂を試みるくらいなら、このまま古い部品を使い続ける方が楽。
そういうのは官制プロジェクトや、古びた大企業ではよくあります。
時代の流れである古い部品がディスコンする、もっと良い後継部品があるというのに、国が製造機械を買い取って継続生産するとかいう防衛産業も同じようなものです。
私も、日本の製造業は残念な状態と思います。
投稿: た | 2023年6月15日 (木) 12時59分
追記、
技術基準書をベースに設計させるエンジニアリングを全ては否定しません。その目的は、品質の低い部品、信頼性の低い部品を使わせない、という設計思想です。古い部品ほど枯れた技術で品質安定して作られている、という考え方もありますし、新たな部品と回路を開発するより、これまで成功を重ねた部品と回路をそのまま流用して使う、そのほうが信頼性が高い、となります。
ロケット開発のような冒険的エンジニアリングでは、しばしばこうした「堅い」設計を続けます。飛び交う宇宙線、真空、熱い冷たい、の極限環境では想定外のことが起きるからですね。ちょっとそんなことも書き残しておきます。
投稿: た | 2023年6月15日 (木) 13時41分
余りに驚いたのでネガティブ感溢れる内容に成ってしまいましたが、まあ難しい世界なのは想像出来ます。
もし優秀な若手技術者がこの報告書を読んだら、硬直して嫌なら出て行けの国では無くて別の国に出て行って苦労する方を選ぶ様な気がして悲しいです。
投稿: みつやす | 2023年6月15日 (木) 15時07分
非常に嘆かわしい事態です。かつてその分野に関わっていた者として一言。起きてしまった事はお粗末としか言いようがありませんが、旧態依然としたTO-3TRが使用されている当には理由があります。樹脂パッケージは真空中でガス放出源となり、他の観測機器に影響を及ぼすだけでなくガス放出によりその物性自身が変化し最終的にはデバイスそのものが崩壊する危険があります。なので今もってガス放出が少ない金属封じ、あるいはセラミック封じが用いられます。またシミュレーションも実機を100%模しているという確証もないので個人的には本当?という感じです。ロケット心臓部を開発した人間がそこまでヘボとは同じ技術者として信じたくありませんね。
投稿: JA2VW水島 | 2023年6月16日 (金) 22時42分
面白いお話をありがとうございました。TO-3には意味があった訳ですね、耐熱性かと思っていたけどガス放出ですか。
私も今回の190Vには信じられないくらいの驚きです。コレクタ電位なんて一番にプローブ当てる所だと思うのですが。。。?。
投稿: みつやす | 2023年6月16日 (金) 23時14分